ポルトクオーレ事務局員の心理学初学者ブログ

臨床心理学総合アカデミア ポルトクオーレ事務局を担当している心理学初心者のブログです。

マインドフルネスは何故抑うつに効くのか

マインドフルネスにはうつやストレスの緩和、
集中力やモチベーションアップなど、様々な効果が臨床的に示されてきました。

 

今回は何故効くのか、そのメカニズムについて興味があったので、
「マインドフルネスと抑うつとの関連 ―自己制御の働きに着目して―」 宇佐美 麗・田上 恭子(2012年)という論文を参考に記事を執筆したいと思います。

 

お恥ずかしい話ですが、心理学初学者の私は学術的な論文に触れたことがなく、
出身である法学部は卒論も不要だったので、
論文を読んだことも書いたこともないという状態でした。

 

しかし何事も皆初学者はゼロからのスタートです。
以前の記事でも書かせていただいたように、「やり始める」ことが一番大切で、
まずは読んでみようという気持ちを自分に奮い立たせ今回の執筆に至りました。

 

さて話は戻りますが、この論文ではマインドフルネスが何故抑うつに効果があるのかについて論じられています。

 

マインドフルネスと抑うつとの間には介入研究や、
Mindful Attention AwarenessScale(以下、MAAS) といった尺度を用いた調査研究から効果が実証されていましたが、
なぜその効果が生じるかという点に関しては、統一した説明がなかったため、
この論文ではそのメカニズムについて検証をしています。

 

筆者は以前から研究が増加していた
「マインドフルネスが自己制御過程にどのように関連しているのか」という視点から、
その中でも自己制御に関わる概念、エフォートフル・コントロール(以下EC)に着目し
マインドフルネスとの関連性について調べました。

 

ECとはRothbart, Ahadi, & Evans(2000) が提唱した概念で、
「実行注意の効率を表す概念であり、主要な反応に対してストループ作業における認知的葛藤のように副次的な反応を行うことを抑制する能力」と言われています。
優勢な反応を抑制して優勢ではない反応を遂行する過程にかかわる心理特性、
もっと簡単に言えば、エフォートフル(努力をいっぱい)してコントロール(制御)する能力です。

 

マインドフルネスがECに正の影響を及ぼし、ECが抑うつ負の影響を及ぼす。
つまり マインドフルネス → EC→ 抑うつ改善  という関連です。

 

この研究では大学生266名を対象にBrown & Ryan(2003) によるMAASを日本語に翻訳した質問紙を用いて、マインドフルネス、EC、抑うつとの関係を検証しています。

 

細かい検証手順や項目は省きますが、結果から言うと、
MAASの項目分析も因子的妥当性が認められ、相関分析でも、
マインドフルネス、EC、抑うつの関連はそれぞれ高いことが示されました。

 

特にこの研究では、実行注意に関する自己制御能力のうち、
行動抑制の制御がマインドフルネスの抑うつへの効果に関連している可能性が示唆されたとあります。
自己に能動的な注意を向けることで気づきと注意が一致し、ECに反映され適当な判断を行うことで欲求のままに行動しないことが「行動抑制の制御」にあたるようです。

 

これらの論拠から「マインドフルネスは行動抑制の制御により抑うつに効果がある」という結論が導き出されます。

 

そして私が特に興味を持ったのは以下の結論部分でした。

 

・自己への気づきと注意が一致するマインドフルな状態が実行効率を促進することが示された
・自身の感情が動機となっている状況に不適当な行動を抑制できる能力が促進されるためである
マインドフルネスな状態において「自らの欲求に基づく行動を抑える」という自己制御が働くことが抑うつ低減に結びつくということが本研究から示唆される

 

マインドフルネスは「気づきを得る」ことばかりが着目されがちですが、
その気づきを得るための「マインドフルネスな状態」により自己制御が促進される機能があることは新たな発見でした。

 

少し長いですが下記の説明も非常に興味深かったので引用させていただきます。

 

『行動抑制の制御という因子は、本来マインドフルネス理論において強調されている「距離を置く」ということばと結びつきが強い可能性が考えられる。

マインドフルネスになるために必要な「距離を置くこと」は、先述したように、主観的な思考から遠ざかり客観的視点をもつことで自身への気づきを高めさせることを表す。

マインドフルネスで行われる「距離を置くこと」において、冷静にその時の自己の状況を見つめられるという点が、行動抑制の制御をもたらすのではないだろうか。』

 

この考察はまさに私がマインドフルネス瞑想を実践している際に感じていることで、非常に腑に落ちました。

マインドフルネス瞑想では「○○な自分に気づく」というように、自分と距離を取って自分を観察しています。

その場で深く考え込み、踏み込んで判断をしてしまうのは自分との距離が上手く取れていない状態です。

冷静に自分との距離を取り、今起きていることに注意を向けられる状態、つまりマインドフルネスな状態は自己制御ができる状態であると言えます。

その結果、特に何か気づきが得られなかったとしても、その状態になることにも意味があると、この論文を読んで「気づき」を得たことは収穫でした。

 

普段読書もあまりしない私が初めて学術的な論文を読んでかなり骨が折れましたが、
自分なりに解釈をし、記事として形にできたことは良い経験になったと思います。
他にも興味深い論文があれば記事にしたいと思います。

 

最後に少しだけ宣伝させてください。

 

ポルトクオーレでは10月27日(水)にマインドフルネスセミナーを開催いたします。

今回は注意・言葉・フレームという3つの視点からACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)に関連したマインドフルネスの講義をしていただきます。
マインドフルネス、ACTはそれぞれ第4回公認心理師試験にも出題されており、
公認心理師を目指す方にとっても是非参加していただきたいセミナーとなっています。

portocuore.jp

 

また、OBPアカデミアでは毎週月曜日にマインドフルネスセミナーを開催しています。
これまでご紹介した様々なワークを通して実践的なマインドフルネス瞑想が行えます。
ご興味のある方は是非お申し込みください。私も参加しております。

obp-ac.osaka

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。